私が客席から動けずにいると、仁くんがステージを飛び降りてきた。

「絆、来いよ。」

仁くんが私の手を取って歩き出す。

仁くんは、私をステージに上げようとするが、こんな大勢のスタッフがいるところで、弾ける訳がない。

「仁くん、無理だよ。
私のピアノは、人に聞かせられるようなもの
じゃないもん。」

「そんな事ないよ。
俺の中では、絆のピアノは世界一だよ。
なぁ、弾いて。
それともリクエストした方がいい?」

「リクエスト?」

「ショパン、ワルツ9番」

ショパンが恋人のために書いた曲。

「いい曲だけど、暗譜してないよ。
楽譜がなきゃ、弾けない。」

「あるよ。楽譜。
山崎さん、俺の鞄からショパンの譜面
出して。」

え?
いやいや、譜面があるからってこんなとこで弾けないし。

もしかして、仁くんは、私の気持ちに気付いてる?

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