「うん、それも考えた。
だけど、もし、子供ができたら?
私は子育ての環境を考えたら、やっぱり
日本で育てたいと思う。
その時、仁くんは日本にいないでしょ?
私はひとりで子育てするの?
年に数回、帰ってくるだけの仁くんを待ち
ながら?
それは、嫌なの。
子供がお父さんの顔を忘れちゃうような
家族は、嫌なの。
だから、仁くん、ごめんね。
仁くんは、大好きなんだけど、仁くんとの
未来は考えられない。」

仁くんの綺麗な顔が歪んだ。

「じゃあ、ピアニストを辞める。
俺は、昔からピアノより絆が大事なんだ。
絆を失うくらいなら、ピアノを辞めるよ。」

「それはダメだよ。
世界中のみんなが、仁くんのピアノを
待ってるんだよ。
仁くんは、それに応えなきゃ。」



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