「は? 聞いてないぞ。」

天くんが上から睨む。

「だって言ってないもん。
いってきまーす。」

私は、天くんを無視して、家を出た。



玄関先には、パールホワイトのセダンが止まっていた。

章吾さんが助手席のドアを開けてくれる。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

私は助手席に乗り込む。

車内には、仄かに漂うシトラスの香り。

温厚で爽やかな章吾さんそのものみたいな車だな。

運転席に章吾さんが乗ろうとしたら、天くんから声が掛かった。

「桐生!
絆に手出したら、ただじゃ済まさないからな。」

「はい、もちろんです。
恋人でもない女性に手を出すほど、
無節操ではありませんよ。」

章吾さんが微笑んで答える。

「では、絆さんをお預かりします。」

章吾さんは、天くんに一礼して、車に乗り込んだ。

< 202 / 318 >

この作品をシェア

pagetop