チケットがない星くんは、

「ロビーで待っててやるから、行ってこい!」

と背中を押してくれた。

星くん、忙しいのにありがとう。

私は会場に入る。

今日は春山部長が用意してくれた席。

前回の仁くんにもらった席ほどではないけど、前寄りでやや左寄りの仁くんがよく見える席だ。



コンサートが始まる。

仁くんのピアノが切ない。

仁くんの心が血を流してるのが伝わる。

ごめん、仁くん。

一曲目が終わり、仁くんがマイクを持つ。

「今日は、寒い中、わざわざ春山仁のピアノを
聞きに来ていただき、ありがとうございます。
最後までごゆっくり…」

そこで仁くんの言葉が止まった。

仁くんが私を見てる。

私は精一杯の笑顔を作る。

仁くんは一瞬、泣きそうに顔を歪めて、その後、花が咲くように綺麗に笑った。

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