すると、何も言わずに見守っていた結ちゃんが口を開いた。

「じゃ、絆、私は行くね。
一応、天のそばにいないといけないから。」

それを聞いて、仁くんはようやく私を解放した。

「あ、結さん、お久しぶりです。
挨拶が遅れて申し訳ありません。」

「ふふっ
いいのよ。
仁くんには、絆しか見えてないのよね。
仁くん、絆、ちょっと前に失恋したの。
慰めてやってね。」

そう言って笑うと、結ちゃんは手をひらひらと振って部屋を出て行った。

「もう!
結ちゃんてば、余計な事しか
言わないんだから。」

私が悪態を吐くと、仁くんが私の顔を覗き込んだ。

「絆、失恋したの?」

そう聞かれて、私は思わず苦笑した。

「失恋ってほどの事じゃないよ。
向こうが、『付き合って』って言うから、
付き合ってみたけど、相手は出世目当て
だったのに、天くんに出世の後押しはしない
って言われたから、捨てられただけ。
もともと好きな人でもなかったし、
全然気にしてないよ。」
< 36 / 318 >

この作品をシェア

pagetop