「………絆、好きでもない奴と付き合うんだ。」

仁くんにそう言われて、私は困った。

「私だって、もう25だよ?
そろそろ先の事も考えなきゃいけないし、
付き合ってみたら、いい人で好きになるかも
しれないじゃない。」

「………絆は、俺が好きなんだと思ってた。
俺の勘違いだった?」

仁くんの声が、表情が切なくて、胸が苦しくなった。

「あ、あの、えっと、
仁くんの事は、もちろん好きだよ。
好きだけど、あれ?」

私はよく分からなくなって、何も言えなくなった。

好きって、あの『好き』?

でも、仁くんとは、年に数回、コンクールで会うくらいで、その後、みんなで食事には行ったことあるけど………あれ?

私、仁くんの事、好きなの?

大学生になった仁くんが、長期休暇の度に名古屋に遊びに来てくれたのは嬉しかったけど、私たち、別にそういうのじゃなかったと思うんだ…けど………あれ?
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