絆
「仁くん、何?」
今度は私が聞く。
「なんでもない。」
「なんでもなくないでしょ?」
「いや、絆が、サラッと嬉しい事言うから。」
よく見ると、仁くんの顔がほんのり赤い。
「ふふっ
仁くん、照れてる?」
「絆、うるさい。」
「はいはい。
じゃあ、仁くんの顔が赤いのがバレないように
お酒飲んで来よう。」
私はそう言って、仁くんを忘年会会場に連れ出した。
立食形式で、壁際に並んでいるお料理とワインを手に仁くんと乾杯をする。
「仁くん、お疲れ様。」
「絆もな。」
会社の人達は、もうお腹いっぱい食べた後なのだろう。
こんな壁際には寄り付かず、部屋の中央で歓談している。
しかし、ひとりの女子社員が仁くんに気付いた。
「あ、もしかして、春山さんですか?」
そうだよね。気付くよね。
仁くんは、ただでさえ、かっこよくて目立つのに、スーツ姿の男性ばかりの中、1人デニムなんだから。
「はい。」
仁くんが答える。