私は、仁くんの腕をすり抜けて、桐生さんのもとへ行った。

「さっきは、みんなが失礼な態度をとって
ごめんなさい。
みんな悪気はないの。
ちょっと過保護なだけで…」

「いえ。
あの、栗原さんて、専務や小川本部長と
知り合いなんですか?」

「え?」

「さっき、取締役2人を下の名前で呼んでた
ようなので…」

えっと…
これは、説明すべき?

でも、初対面の人にうちの複雑な家庭事情を説明するのもちょっと…

「ちょっと、いろいろあって。
今日は、演奏を褒めていただけて、
とても嬉しかったです。
失礼します。」

私は、頭をペコリと下げて、桐生さんから離れて、仁くんのもとへ戻った。

「仁くんも帰ろ?」

私は仁くんに声を掛けて、控え室に戻る。
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