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世の中、そんなに甘くないと気付かされたのは、入社してほんの数ヶ月後の事だった。

3ヶ月の研修の後、私は正式に第一本部システム部に配属された。

私から離れた別の班には、結ちゃんが課長として座っていて、営業部の横のガラス張りの個室には、本部長の天くんがいる。

家族3人が同じ部署だなんて変だと思ったけど、それが私を守るための海翔くんの配慮だなんて知らなかった。


住所などの個人情報は、もちろん公にはされない。

だけど、事務処理をする上で、それを目にする人がいるのも事実で、それを見た人が疑問を持つのも仕方のない事だと思う。

だって、新入社員の私、栗原が、小川家と同じ住所なんだもん。

海翔くんと天くんは、今もイケメンなおじさまだけど、26年前、私が生まれた頃は、さらに我が社の双璧をなすイケメンだったらしい。

そんな海翔くんの子である私を出産したにも拘らず、海翔くんを捨てて天くんと結婚した結ちゃんは、当時、酷い醜聞に晒されたんだそうだ。

当然、4〜50代の社員は、その当時のスキャンダルを記憶している。

小川家に違う苗字の海翔くんそっくりな女の子が住んでるとなれば、私の出生の秘密は簡単に想像できてしまう。

だから、入社1年目、人生初のモテ期かと思ったら、それを聞きかじった出世目当ての男性が群がっただけだと言う哀しい現象が起こり、それが現在まで続いている。

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