「今のは、即興?
なかなか、良かったよ。」

学生の頃はすっごく厳しい先生だったのに、今は不思議なくらいにこやかだ。

「栗原さんは、一般企業に就職したと
思ったけど、ピアノ続けてたの?」

先生が尋ねる。

「いいえ。
時間がある時には弾きますけど、平日は
忙しいので、週末に指慣らしをするくらい
です。」

「そう。
それにしては、良かったよ。
学生の頃より、いい音をさせてたかも
しれない。」

「ええ!?
それはそれで、すごく残念なんですけど。」

私が口を尖らせると、教授も仁くんも笑った。

「じゃあ、春山くんとの相性がいいんだな。」

教授が言うと、

「でしょ?
なのに、あの頃、先生があんな事言うから。」

仁くんがなぜか、ふてくされる。

「いやいや、お互い実力をつけた今だから、
相性の良さが発揮できるんだよ。
あの頃なら、こうはいかなかったはずだよ。」
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