イケメンの桐生さんを前に、杏菜の態度が変わった。

「はじめまして。
二本(にほん)の奥田杏菜(おくだ あんな)です。
桐生さんは、おいくつなんですか?」

ぷっ
分かりやすい。
声のトーンが3音ほど上がってる。

杏菜はいつも「おはよ」の「お」が、だいたい「ド」で始まる。

だけど、今の「はじめまして」は、「ファ♯」だった。

「来月29になります。
奥田さんと栗原さんは、
おいくつなんですか?」

「私は26になりました。
同期なんですけど、絆はまだ25だよね?」

杏菜がこたえる。

「うん。
私も来月、誕生日なんです。」

私が言うと、

「そうなんですか?
何日ですか?」

「20日です。
桐生さんは?」

「20日なんですか?
僕は21日なんです。
1日違いですね。」

桐生さんは、優しく微笑む。

しばらく食事を進めてから、

「あの、栗原さん。
折り入って、お願いがあるんですが…」

と、桐生さんが、言いにくそうに言う。
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