「アンコール、ありがとうございます。
今日のためにアンコール曲を用意したのに、
アンコールが掛からなかったらどうしようか
と思いました。」

そう言って、仁くんは笑い、会場もあたたかい笑いに包まれる。

「これから演奏しますのは、今日、初披露の
オリジナル曲です。
俺の28年の人生でただ1人、愛した女性への
想いを曲にしました。
皆さんも俺の片思いが成就するように
応援してくださいね。
………聴いてください。
『絆』 」

え!?

仁くんは、マイクをおいた。

目を閉じて、深呼吸をする。

目を開いてこちらを見ると、仁くんは、微笑んだ。

まるで、私に「聴いてて」とでも言うように。

仁くんは鍵盤に向かい、もう一つ、目を閉じて深呼吸をした。

そして、目を開くと、手を鍵盤に乗せて、音を紡ぎ始めた。


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