「絆、好きだよ。
絆は、もう俺の事なんて好きじゃ
なくなった?
他に好きな奴できた?」

え?

私、仁くんの事、好きだ、なんて言った?

そんな覚えないんだけど…

「あの…なんで、私が仁くんを好きだった事に
なってるの?」

「だって、絆、俺の事、好きだったでしょ?」

「え? そんな事は… 」

「そうか。
絆は、結局、自覚がないままなんだね。」

「え? 自覚って…」

「絆、おいで。」

仁くんは、私の手を取って立たせると、客席を出て、ステージに向かった。

「絆、座って。」

仁くんは、コンサートピアノの前に私を座らせようとする。

「何?」

「いいから、座って。」

仁くんに肩を押されて座らされる。

「絆、目を閉じて。」

訳が分からないまま、私は目を閉じる。

「そのまま、俺を思い浮かべて。
俺を思い浮かべたまま、絆の好きなリスト、
なんでもいいから、一曲弾いて。」

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