僕の隣で、笑うキミを
# 委員会

「遠野。今、何してる?」

「…先生」

遠野、と呼ばれた僕は呼ばれるがまま、担任の方へと駆け寄る。机の横にあるフックに提げられたスクールバッグを避けながらあまり目立たないように。

「お前、委員会やってくれないか?」

近くまで駆け寄ると、担任はすぐさま要件を伝える。彼のせっかちで短気なのはクラスメイト全員が知っていることだった。

「なんで、僕なんですか?」

「部活もしてないし、今まで委員会にも入ってないだろ?」

「…まぁ、はい」

確かに、この半年近く委員会など興味もなかった。寧ろ、面倒くさいと投げ出したくなるほどの代物だ。自分が出来そうな委員会と言えば、図書委員程度だったし、それでも僕自身、あまり本は好きではない。小学生の頃から友達のいなかった僕にとって、自然と隣にいたのが本であって、それ以上の興味も関心もない。

「図書委員なんだが、どうも人気がなくてな…しかも全ての委員の決定は明日までで、どうしても誰かを決めなければならないんだ。遠野が承諾してくれたら解決なんだが。やってみないか?」

流石にそこまで言われると、僕も断りにくいものだ。教師という仕事がどれ程大変かを、僕は知っていた。面倒くさいと思いつつも渋々「はい」と返した。

_ 1週間後 _

この日から委員会の集まりは始まった。同学年は5クラス、男女一人づつで合計10人もいるのに、まともに集まりに来たのはたったの3人。1番の下級生である僕たちの態度は悪いと言って済むものではなかった。2年生は合計10人の中で、8人、3年生は5人が来ていた。

「これから、三役を決めたいと思います」

三役とは、その委員会を組織する上でのリーダー格みたいなもの。立場順に言えば、委員長、副委員長、書記で、上へいくと同時に委員内での権力は強くなっていく。人をまとめる力や、尊敬されている人が委員長、副委員長に向いている。だから僕には三役なんて関係ない。

「委員長をやりたい人はいますか?」

図書委員の担当である、女性教師が声をあげる。その声と同タイミングか、それより数秒遅れたあとに手を上げる者がいた。

「如月さんね、他にはいませんか?」

如月と呼ばれた彼女はゆっくりと手を下ろし、当たりをチラチラと見ている。恐らく自分以外に委員長を狙っている人間でも探しているのかもしれない。だが、その考えも虚しく、彼女以外に手を上げる者はいなかった。

「それでは、委員長は如月さんで決定です。如月さん、ここへ来て自己紹介と、指揮を」

「はい」

椅子から立ち、教卓へ向かうその姿はとても儚く、美しいものに見えた。ふわふわと白い首筋を覆う明るい黒髪と、淡い色のカーディガンがよく似合っている。

「委員長になりました、2年の如月 彩月です。頼りないですがこれからよろしくお願いします」

見た目とは裏腹に、おっとりと優しい口調で話す彼女を見ていたのは、僕だけだったかもしれない。不審に思われないようにそっと他の人たちを見ると、各々、自由に過ごしている。まともに彼女の自己紹介を聞いていたのは、やっぱり僕だけだった。

「それでは、副委員長を決めます」

「如月さん、副委員長は…」

何やら女性教師と委員長が話し始める。そして、暫しの会話を終えると僕の方を見た気がした。

え、今、僕のことを見た…?…気のせいか

「副委員長は、1年生の遠野くんで」

僕の名前が呼ばれた気がした。きっと他にも同じ名字がいるのかもしれない。

「遠野くん、前へ」

「…僕てすか…?」

恐る恐る、彼女へ問うてみる。すると、満面の笑みを浮かべ、勢いよくこう言った。

「はい!!」
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