愛のない部屋

本当に美味しそうにオムライスを食べてくれる、タキを見ていると幸せを感じる。

食卓を囲む人がいることの有り難さを痛感するのだ。


「結婚式の前に、旅行に行くんだよ」


「うわ~いいなぁ」


「恋人最後の旅行にさ。もちろん新婚旅行も行くけどね」


「贅沢~!」


「それで沙奈も一緒に来ない?……そんな不細工な顔をしないで」



鏡がないから分からないけど、きっとしかめっ面になったに違いない。


だって恋人同士の旅行に私を誘うなんてどうかしてるでしょう?



絶対に空気を読んでないって。



「遠慮はいらないぞ」


「行かない」


絶対に行かない。



「彼女も沙奈に会いたがってるんだ」



「だからと言って、旅行に連れていく必要はないでしょ?」



カップル+おまけ、なんて気を遣うのはこっちなんだから。



「どうしても?」


「行かない」


「まいったなぁ」



困ったような素振りを見せながらも、止まらない箸。


よく食べる、というか……全然、まいってないでしょう。



「オムライスと味噌汁かぁ。うちの奥さんだったら、スープかなぁ」


しかも文句ときた。


組み合わせが悪いと、遠回しに指摘すんな!

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