愛のない部屋

こっちがどんな気持ちでアンタを待っていたか分かる?


「私、嘘つきは一番嫌いなの。アンタは最低だよ」


嘘をつかれ、キスまでされて。
いくら謝られたって、許してなんかやらない。



いっそ縁を切ろう。


タキ、峰岸は最低な男だったよ。


そう報告すればタキも分かってくれるかな。



「……最低だよな」



いつもの反論はなく、なんだか腑に落ちない。



これじゃぁ一方的過ぎて、私が本当に嫌な女になってしまうじゃないか。



「出て行かれても仕方ないと思う。でも行く所ないだろう?」


「ネットカフェだって良いわよ。公園で寝泊まりする覚悟だって、ちゃんとあるんだから」


「公園なんて、心配だから却下」



「私のなにを心配するって言うの?放っておいてよ」



もう関わりたくないのに。


「アンタのこと、少しずつ分かってきたと思ったのに、また分からなくなったよ…」



口が悪いけれど本当は優しくて。



「おまえに俺の気持ちが分かるのか?」



挑発的な視線を注がれて、戸惑う。



「俺が今、何を思っておまえにキスしたか、本当に分かっているのか?」



――キス、



他人の口から吐かれたその言葉は、よりリアルに響いた。

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