愛のない部屋
「もう寝かせて」
「うん」
少し考えたい。
時間が必要みたいだ。
「昼飯も夕飯にも、間に合わなくてごめん」
「……」
「キス…して、ごめん」
何度、謝られただろう。
いつも謝るどころか、妥協すらしない男なのに。
調子が狂う。
「おやすみ」
静かな声とともに扉が閉まる音がした。
……おやすみ。
キスの理由は峰岸の心の準備が整い次第、教えてくれると言っていた。
もし今、私と同じ状況に立たされた人がいるなら。
その内9割以上の人がこう思うのではないか。
"アイツは、私に気があるんだ"
"好きな女の子にキスしたいのは、男の本能でしょ"
そんな風に考えて、まぁ嫌な思いをしない人が大半なはず。
でも、私はね。
好きでもない女に、甘い言葉、それ以上に甘いキスの嵐を降らせる男を知っているんだよ。
キスなんて、
挨拶程度であると軽々しく言われたんだ。
だから峰岸が私に好意をもっているなんて、
容易く納得できるはずがない。
峰岸にとってのキスの意味を、
その本心を早く知りたい。