愛のない部屋

「修吾(シュウゴ)、」

舞さんがタキをそう呼ぶのに気付いた車内で、違和感を覚えずにはいられない。


――修吾、


それがタキの名前だと初めて知った。

無償に寂しく思えた。




私が知らないことを知ることが許された特別な女性……。



「行くぞ」


不機嫌そうな声が聞こえれば、タキはもう既に車を降りて遠くへ行ってしまっていた。

その隣りには当然だけれど、とびっきりな笑顔を浮かべた舞さん。



「ぼっとしてると、置いてかれるぞ」



先に行かずに待っていてくれた峰岸の隣りを歩く。


車から降り、しばしの休憩だ。



「2人はお似合いだね」


「そうか?」


「峰岸もあういう子、タイプなんじゃないの?」


「一緒にいたら疲れそう」


「変わってる」



みんなに好かれそうな女の子。私もあういう子になりたかったんだよね。



「おまえはおまえらしく、やれば良いだろう」



隣りの悪魔が似合わず、天使のような発言をした。

聞こえないフリをしないで、私も、
ありがとう、そう言えたら良いのにね。


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