愛のない部屋
舞さんが眠ってしばらく経つとタキは口を開いた。
「沙奈も休みな」
「私は平気だよ」
タキが運転してくれているのに、寝るなんて失礼な気がした。
私と同じように窓の外に視線を向けている峰岸は、なにも話さない。
無口な男だ。
「舞、可愛いでしょう?」
照れもせずに言ってのけるタキ。
「とっても可愛い」
素直な感想を口にする。
タキの彼女だからって、過大評価をしたわけじゃない。本当に素敵なんだ。
「峰岸もこういうお嫁さんが欲しい?」
タキから峰岸に投げ掛けられた言葉に、何故か返事を聞きたくないと思ってしまった。
「どうだろうな」
峰岸には珍しい曖昧な答えだ。
「峰岸は沙奈の方が良いのかな」
「タキ、なに言ってるの」
峰岸にはマリコさんがいるのに。
「そうだな」
「……」
肯定の言葉に固まる私と、くすくす笑うタキ。
「峰岸……?」
ひとり分空けて隣りに座る峰岸を凝視してしまう。
熱でもあるのか?
「俺も寝る」
目が合うと峰岸は
ふい、っと顔を窓に向けた。
「お、照れてる」
タキはいつも以上に楽しそうだった。