愛のない部屋
「そうやって他人と壁を作るんだな。その方が楽だもんな?」
「知ったような口を利かないで」
雨音が増す。大雨洪水警報が出ていてもおかしくない激しさだ。
こんな雨の日は傘をさしていても濡れるだろうに、2人で使用していてはビショビショになってしまう。
現に私の方が多くスペースをとっていて、峰岸の肩は濡れている。
その優しさがくすぐったい。
「知ったような口?いや、俺も同じだから分かるんだよ」
「なにが?」
「はぁ?会話の流れから理解しろよ。俺も壁を作るのが得意なんだよね」
なにが同じだ?
とても不愉快。
どうしてコイツと私が一緒にされなくちゃいけないの?
タイミング良く通ったタクシーが目に入り、慌てて手を挙げた。
雨が降っていること、
峰岸と遭遇してしまったこと。
それらは最悪だけれど、
普段なかなか通らない道にタクシーが来たのは幸運だ。
「ありがと」
「ちょ……」
ここまで入れて貰ったお礼だけは言う。
そして素早くタクシーに乗り込む。
けれども扉が閉じる前に、峰岸が乗り込んできた。
眉を潜め、運転手に行き先を告げた。