愛のない部屋
「もう3年、会ってないんだ。あの手紙を貰い、連絡はとった」
「そう……」
「会いたいという、向こうの申し出を受け入れられなかった。でも決着をつけてくるよ」
「……」
「そしたらおまえに、もう一度告白する」
やっぱりあのキスの日、マリコさんと会っていなかったのかな。
素直に"会わないで"、そう言えない自分が嫌いだ。
なかなか部屋から出て来ない2人を置いて、峰岸とお祭りに行くことにした。
「ホントは滝沢さんが色々、観光地を案内してくれるって言ってたのによ。あの様子じゃぁ、期待できないな」
「……仕方ないよ」
旅行のガイドなんてしている場合ではないだろう。一番大切なものが、失われるかもしれないのに。
「おまえ、元気ないな?」
こちらの浮かない顔を察したのだろう。
鋭い男だね。
「舞さんとの話だと、2人は親同士が決めた結婚なんだよね?」
人通りの多い道なので自然と密着する身体。
「ああ」
「知ってたの?」
「滝沢さんから聞いた」
タキは本当に私には何も教えてくれない。
「それなりの家柄の人たちは自分の家族や会社にとって利益になる結婚をすることはよくある話で。そこに愛情が存在しないこともあるのよね?」
愛がなくても暇つぶしの恋愛くらいはできるのだと、あの人は言っていた。
「愛していなくても、男は女を抱けるしな」
「……」
最もな意見。
「それで幸せなのかな?」
幸せの定義なんて人それぞれだけれど。好きでもない人と生涯を共にすることは、苦ではないのだろうか。
少なくとも私には無理だ。