愛のない部屋

「初めて祭りに来た相手がイケメンで良かったな」


ナルシストな男は私の右手に指を絡め、得意げに笑う。


「俺の射的の腕前、お披露目しましょう」


「射的?」


「うん、行くぞ」


少しひんやりとした手が心地よかった。だから振り払うことをせずに受け入れた。


「どれが良い?」


射的屋のおじさんに小銭を渡す。


「とってくれるの?」


「ああ」



並ばれたバラエティ豊富な景品。

端から端まで吟味し、



「アレがいい」



中央より少し右よりの、人形を指差した。



「ライオンか?」


「うん」


「まかせとけ!」



数秒後、

愛嬌のあるライオンのぬいぐるみに、見事に的中した。まだ1回しか挑戦してないのに、すんなり景品が渡された。



「お兄さん、上手いね」


「ガキの頃からやってますから」


店主にも褒められている。


「次はなんか食うか?」


腕前を披露できて満足したようだ。
本当になんでもできるんだな。


「本当に私が貰っていいの?」


「いい歳した男がぬいぐるみを持ってるなんて、気色悪いだろうが」

< 165 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop