愛のない部屋
「初めて祭りに来た相手がイケメンで良かったな」
ナルシストな男は私の右手に指を絡め、得意げに笑う。
「俺の射的の腕前、お披露目しましょう」
「射的?」
「うん、行くぞ」
少しひんやりとした手が心地よかった。だから振り払うことをせずに受け入れた。
「どれが良い?」
射的屋のおじさんに小銭を渡す。
「とってくれるの?」
「ああ」
並ばれたバラエティ豊富な景品。
端から端まで吟味し、
「アレがいい」
中央より少し右よりの、人形を指差した。
「ライオンか?」
「うん」
「まかせとけ!」
数秒後、
愛嬌のあるライオンのぬいぐるみに、見事に的中した。まだ1回しか挑戦してないのに、すんなり景品が渡された。
「お兄さん、上手いね」
「ガキの頃からやってますから」
店主にも褒められている。
「次はなんか食うか?」
腕前を披露できて満足したようだ。
本当になんでもできるんだな。
「本当に私が貰っていいの?」
「いい歳した男がぬいぐるみを持ってるなんて、気色悪いだろうが」