愛のない部屋
「ストーカーで訴えてやる」
「証拠を残さないように上手くやるさ」
「……」
どんな状況においても峰岸が一枚上手のようだ。
弁が立つし、なにより正論。
敵に回したら怖そう。
「来年は、私がたこ焼きを奢るから」
「…うん」
「何処にも行かないでよね?」
「あたりまえだ」
頭をポンポンと優しく叩かれ、耳元に彼の唇が触れた。
どきりとする。
「愛してる」
なぜこんな騒がしく人の多い場所で、愛の言葉を堂々と紡げるのだろう。
「もう離さない」
「……今、幸せすぎて怖いの」
繋がらない会話。
峰岸の想いに答えるのではなく、ただ不安な気持ちを吐き出す。
「この穏やかな時間の後、なにか嫌なことが起きそうなの。そんな気がするの」
臆病な心は再び、警告音を鳴らし始めたようだ。
後戻りができない位置に到達する前に、引き返せと命令してくる。
それに逆らって峰岸の傍にいたいだなんて間違っているのかな。
「なにが起こっても、おまえは俺を信じれば良いんだよ」
優しく、甘く、
また毒を吐かれた。