愛のない部屋
指定されたパスタのお店に時間通りに向かうと、既に舞さんは到着していた。
「先日はご迷惑をおかけ致しました。すみません」
"こんばんは"の挨拶よりも先に、突然の謝罪。
「旅行先で喧嘩なんて、馬鹿みたいですよね」
自嘲気味に舞さんは笑う。
「喧嘩しない恋人なんていないと思います。喧嘩するほど仲が良いんですよ」
気休めにもならない、ありきたりな言葉。
そんな陳腐なものしか浮かばない時点で、舞さんの力になれるはずがないのに、
「少し話を聞いて貰えますか?」
そう言われた。
「聞くだけになりますよ?気の利いたことはなにも言えないし…」
「はい。あ、なに食べますか?」
メニューを広げてくれたので、覗き込む。
どれも美味しそう。