愛のない部屋
今まで散々、嫌な想いをしてきた。
言葉の暴力を受け、何度も傷付いてきた。
だからこそ自らを守るために高くて厚い壁を張った。
もし峰岸も周囲と壁を作っているなら。
私たちは弱い人間だ。
立ち向かう勇気を捨てた臆病者。
「手伝うことは?」
「無いです。先にシャワーでも浴びてきたら?」
「遠慮なく、そうさせて貰うわ」
「うん」
ワイシャツのボタンを半分くらいまで外し、ソファーにもたれ掛かっている峰岸も相当疲れているのだろう。
峰岸はのろのろと立ち上がり、バスルームへ姿を消した。
ひとりの空間に戻り、ほっとする。
ワガママかもしれないが、同じ空間にいて安らげるのはタキだけだ。
それでもタキのことも、ほとんど知らない。
年齢も住所、職業すら。
電話番号、以外なにも。
それなのに心のどこかで繋がっている、なんて。
ガラにもなくロマンチストな考えをしてしまう。