愛のない部屋
峰岸は接待などで個室の料亭を利用しているだろう。
個室は話しやすい場所だし疑わしいことは無いはずなのに。
もしかしたらホテルやマリコさんの自宅に居るんじゃないか、そういらぬ詮索をしてしまう。
こんな自分が嫌で仕方がない。
「おかえり」
家の鍵を取り出しながら歩いていると前方に人影が見えた。
「夜道に女の子がひとりなんて、危ないね」
峰岸の低い声よりワントーン高いもの。
「篠崎さん?」
壁に寄りかかりながら腕組みをして、空を見上げながら男は笑った。
「夜遊びしない?」
「いえ、帰ります」
後、数メートルで自宅だというのに待ち伏せされていたのだろうか。
「付き合ってよ?一晩くらい良いでしょ」
「篠崎さんには私でなくても、違う人がいるでしょう?」
同じオフィスで働く女性社員、確か受付の綺麗な人も篠崎狙いだったけ。
「つれないね?」
「よく言われます」
「それじゃぁ俺は駅前のホテルにいるから。なんかあったら来て良いよ?」
ホテル?
「なにを企んでいるのですか」
「さぁね」
おちゃらけた返事をした篠崎の目が笑っていない。