愛のない部屋
優しい笑顔に似合わない、冷たい瞳。
「君が来るまで、ずっと待ってる」
「意味が分かりませんが」
こちらの質問に答える気がないのか、
また空へと視線を向けた。
「空だって悲しい時には涙を流す。地上の人々を巻き込み、泣きわめく。だから君も泣きたい時は大声で泣けば良いし、他人を巻き込んでも良いと思うよ」
「……」
いきなり天気の話?
よく分からないけれど、私のことを心配してくれている。そんな雰囲気を感じた。
「つまり、俺を頼れ」
普段の篠崎らしくない真剣な表情。
誰よりも仕事に熱心で、ふざけているように見えて周りをよく見ている。
なにより公平で自分の考えを押し付けない、尊敬に値する上司。
「気を付けて帰れよ」
靴の擦れる音がして、擦れ違い様に篠崎は私の肩を軽く叩いた。
「おやすみなさい」
無言で別れるのもおかしな話なので、とりあえず挨拶をする。
「うん」
おやすみ、とは言わずに篠崎は行ってしまった。
夜遊びのお誘いをしに来ただけなのだとしたら、相当な物好きだと思う。
なにか私に言いたかったのかもしれない。