愛のない部屋

「キスなんて、させると思う?」


いつもの調子で強く、言う。

いつも通りで、居たい。

マリコさんに私たちの空気を壊されたくない。



「いいじゃん、キスくらい」



最初から起きていたことを知っていたのか、特に驚いた様子はない。


「減るもんじゃないし」

「そういう問題じゃ…」



反論する私の唇に、峰岸の人差し指がそっと触れた。

それだけのことなのに心臓が跳ねる。




「キスなんて、愛がなくてもできるだろう?」



暗闇でそう笑う峰岸が少し怖かった。

なぜか今朝の篠崎を思い出す。



「……峰岸?」


「俺は今、キスがしたい」



いつもの甘い響きなんてない、まるで温かさが感じられない淡々とした喋り方。


「させろよ、キスくらい」



人差し指が上唇と下唇の間に入り込み、


ーー咄嗟にその指を噛んだ。



もちろん手加減はしたが峰岸の顔が歪む。



「ホント、使えない女だな」


なに?


「キスくらい俺のやりたい時にさせろって」



「……どうしたの?」



なんか変。

様子がおかしい……。


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