愛のない部屋
この家を出て行くことで峰岸と過ごした時間を帳消しになんて、できるはずがない。
それでも拒否する権利は私にはなくて、出て行く他に道はないだろう。
泣いていても仕方ない。
涙をぬぐい、鞄を掴み、
そっと部屋の扉を開ける。
リビングの電気は消えていて、洗面所から水の音が聞こえた。
峰岸がシャワーを浴びている内に、
静かに家を出ることにした。
迷いはなかった。
居心地の良い場所にも、峰岸の隣りにも、
不思議と未練はない。
だって峰岸がそう望んだのだから。
優しくて、温かい。
第一印象とは正反対の人だった。
キスを拒み罵られても、怒鳴られても、
峰岸のことを"冷たい男"とは、思わない。
今一番、傷ついているのは
言葉の暴力を受けた私ではなくて、
加害者の峰岸だろうから。
私は、ちゃんと分かってるよ。
本心であんな酷いことを言ったんじゃないよね?
冷たい言葉の裏側に、
なにを隠しているのかは分からないけれど、
きっと理由があるに違いない。