愛のない部屋
嘘には嘘を
駅前にはいくつもの高い建物が連なっているが、一際目立つ白いホテル。
低価格で食事が美味しいと篠崎のお気に入りだ。
705号室の部屋の前まで来てしまった。
ガチャ、
なんの前触れもなく開いた扉。
「お、もう来る頃かと思ったんだ」
「篠崎さん……」
向き合うかたちで彼を見上げる。
あ、峰岸より身長が高いかも。
「どーぞ」
ニコニコと満面のの笑みで、迎え入れてくれた。
「失礼します」
統一感のある室内で思わず目がいってしまう窓際にある2つのベッド。
とりあえずシングルでないだけ良しとしよう……って、私はそんな立場じゃないのに。
今夜はひとりになりたくないからこそ、此処に来た。
「沙奈ちゃんは俺のこと嫌いだから、来ないかと思ったよ」
黒いソファーに座り、組んだ長い足。
男の人に綺麗というのはおかしい表現だけれど。
篠崎の整いすぎてハーフと言われても納得してしまう顔立ち、そして優雅な立ち振舞い。
カッコイイを通り越して、綺麗なのだ。
洗礼されている。
「篠崎さんのことは嫌いというより苦手でした。妙に良い人ぶってるところとか」
「はっきり言われちゃった」
愉快そうに笑うから、私もそれにつられた。