愛のない部屋
「やっと笑った」
「え……」
「沙奈ちゃんはすぐ喜怒哀楽が顔に出るんだから」
立ち上がり、篠崎は歩み寄ってきた。
「いつまで立ってるの?」
「あ、はい…」
篠崎は私の髪を掬い、
「綺麗な髪だね」
そう耳元で呟いた。
「……」
くすぐったくて、距離をとる。
「胸をお貸しした方が良いかな?」
「どうしてですか?」
探るような視線と絡み合った。
「泣きたいかと思って」
「……あの、」
「沙奈ちゃん」
私の髪をもてあそびながら、篠崎は首を横に振った。
「峰岸のことは俺の口からはなにも言えない。だって君と峰岸の間に俺は入れず、部外者だからね。君たちで解決すべき問題だから」
「……」
やんわりと突き放された。
篠崎なら答えをくれる気がしたのに。
「でも傷付いた君の逃げ道をつくることなら、僕にもできる」
いつも"俺"という
一人称の人が今は"僕"と言う。
真剣さが伝わってきた。
「峰岸の代わりはできないことを百も承知で、僕が君の傍にいてあげる」
今度は優しさが伝わってきた。