愛のない部屋
今まで何十人に甘い台詞を吐いて魅了してきたか分からない。そんな女の敵である男が目の前で微笑んでいる。
「彼女さんは、何人いるんですか?秘書課の子と…後、社長の娘さんにも手を出しているということを聞きました」
空気の読めない発言に驚いた様子の篠崎は、
またソファに座った。
「君も座って」
ソファをポンポンと叩き、私を誘導する。
「俺は誰とも付き合ってないよ?食事には行くし、誘われれば休日に出掛ける。でもさ?誰にも"愛してる"なんて言ってないから」
「怪しいです?」
少し距離を空けて、隣りに座る。
「社長の娘に告白されちゃってさ?大泣きされて慰謝料払えだとか言われたよ」
「ええ?それでどうしたんですか?」
「上手く丸め込んだよ。俺、口が達者だしね。彼女の力添えがなくたって、俺は出世の道をたどるつもりだし」
巧みな言葉に騙されそうになる。
私もその中に入らないように、気を付けなければ。
「話がズレたけど、俺はフリーだよ。もしかして沙奈ちゃんも、彼女に立候補したいとか?」