愛のない部屋
「さぁ、どうかな。君次第?」
「私?」
「君が色仕掛けでもしてくれたら、一発で惚れるかも」
「そんなことしません」
「だよな~」
くすくす笑う篠崎は本当に私のことが好きだったのかな?
あれ?
過去形であっても、告白されたんだよね……?
「それで沙奈ちゃんはこれからどうしたいの?峰岸のところには帰らず、俺と一緒に暮らす?」
"俺は構わないけど"、なんて付け足されてしまったが、篠崎は本気で言っているのだろうか。
「私、峰岸に酷いことを言われて、飛び出して来たんです」
「うん」
話題が絶えずによく話す上司だが、同じくらい人の話に耳を傾けてくれる。
話しやすい環境を与えてくれる、そんな小さな配慮に感謝する。
「出て行け、そう言われました」
「うん」
言葉に出すと、現実味が増す。
悪い夢だったらどんなにいいか。
「でも峰岸が安易に人を傷付けたりしないと、分かってるんです。きっと何か事情があると思います」
「そうだね。俺もそう思う」
身体ごと篠崎の方に向け、澄んだ瞳を見つめた。
「篠崎さんにお願いがあります」