愛のない部屋
私のワガママに付き合ってもらうことに、罪悪感はある。嘘をつかせることにも。
けれどそれ以上に峰岸のことを優先させてしまった。
おかしいね。
アイツはマリコさんを優先したのに。
「君に協力するよ」
「お願いします」
立ち上がり、篠崎に深々と頭を下げた。
「後悔しても知らないよ?後戻りはできないかもしれない」
「はい」
「沙奈ちゃんは本当に、頑張り屋さんだね。一生懸命なところ俺は好きだよ」
優しく頭を撫でられた。
嫌だと思うどころか、安心感に包まれる。
「アイツも困った男だね」
「峰岸はなにも悪くないんです」
悪いのは、
峰岸のことを本気で好きになった自分自身。
もう恋をしないと決めたあの日の決意を忘れてはいないが、それでも峰岸を好きになった。
甘い密、ほんのり苦い毒に
惑わされたのだろう。
「私、男運がないかも」
「ばーか。こんな良い男と知り合える機会なんて、滅多に無いぜ?それどころか、同じ部屋にいるんだからな」
自分を指差しながら得意気に言う篠崎は私を元気つけるためにわざと明るく振る舞っているのだろう。
男運がなくても、上司には恵まれたんだ。私は幸せ者だね。