愛のない部屋
身体を揺すられ、暗闇にぼんやりと人影が映る。
「おいっ、」
峰岸……?
「大丈夫?」
「あ、……篠崎さん」
家を飛び出して来たのだから、峰岸が此処にいるはずがないのに。
「うなされてたよ?大丈夫?」
篠崎の腕が伸びてきて、冷たい手が私の目元に触れた。
「泣くほど怖い夢か」
指先で涙をはらってくれた。
それは優しい優しい動作で、不安な夢を消し去る。
それなのに隣りにいてくれる人が篠崎でなく峰岸だったら良かったなどと馬鹿なことを考えてしまう。
ここまで峰岸に依存してしまっていたなんて、自覚してなかった。
「篠崎さん……昔の夢を見ました」
「昔?」
「大好きだった人の夢です」
「大好きだった人の夢を見て、うなされるなんて。君にとって良い思い出ではないのかな?」
「最低な男だったから」
「良かったら話してよ?明日は会社も休みだし、朝まででも付き合うよ」
明日は祝日だ。
枕元の時計はもう深夜の3時を回っている。
「篠崎さん、眠らなくて平気なんですか?私が起こしてしまったのですよね」
睡眠を妨げてしまい、申し訳ないな。