愛のない部屋
「で、君はどうしたいの?高校が人生の終点ではないんだよ?」
急かす様子もなく、のんびりした口調。
「高校を出たら働きます」
「せっかくの進学校なのに、働くのか」
「はい」
都内で有数の進学高校で、恐らく私以外の生徒は大学受験を控えている。
レベルの高い大学へ行ける可能性を秘めているにも関わらず、進学への興味を示さない私に担当の水沢先生はなにかと手を焼いてくれた。
凍った心が溶けるたくさんの言葉をくれた。
水沢 和樹(みずさわ かずき)
初夏を迎えた頃、
先生と付き合うことになった。
そして処暑には
幕を閉じてしまう恋だった。
初恋は瞬く間に、失恋へと変わった。
実は告白した日のことは、あまりよく覚えてない。
みんなには秘密にすることを条件に、水沢先生と付き合うことになった。
別れのシーンは鮮明に思い出せる。
すっかり蝉の鳴き声が聞こえなくなった8月下旬。
文化祭準備の買い出しの際、
「別れよう」
そう唐突に告げられたのだ。