愛のない部屋
それから自暴自棄になった。
もう誰も信じることはない。
誓った。
もう二度と、恋はしない。
それなのに、
峰岸のことを――。
「ありきたりな話だと、笑いますか?大したことじゃないと思われるかもしれませんが、私にとっては……」
「笑うわけない」
ひとつのベッドに2人で腰かける。
近い距離。
石鹸の良い香がする。
「辛い恋を経験して女の子は輝いていくんだ。もう水に流して、俺と新しい恋をしよう」
「えっ?」
「偽物の恋人同士なんて、なにも得るものはないよ?ここはマジで付き合ってみようよ」
まるで映画に行こう、そう誘われているような軽いノリ。
「私は……」
「振るのは、付き合ってからにして?」
「でもっ、」
「1ヶ月、試しに付き合ってみようよ」
どうやら"ノー"とは言わせて貰えないらしい。
渋々、頷いた。
「決まり。俺たち今から恋人な」
楽しそうな篠崎とは反対に、気が重くなった。
もう私は、あの夏の多くを忘れたし、
先生の顔すら思い出せない。
思い出そうとすると、頭が痛くなる。