愛のない部屋
もう自分の家ではないのだからと、チャイムを鳴らす。
「はい」
「……荷物を取りに来ました」
少し声が震えた。
平静を装うことに神経を集中させる。
「開いてる」
聞き慣れた低い声も、少し怖い。
なにを言われるか構えてしまう。
もうなにも彼の口から聞きたくない。
峰岸によって重ねられた嘘は
私も、そして彼自身をも傷つける刃。
そっとドアノブを回せば、静かに扉は開いた。
「お邪魔します」
返事はなかったので勝手にリビングへと進む。
模様替えをしなければ1日やそこらで部屋の雰囲気が変わるはずがないのに。
昨日と変わらないリビングの様子に安堵する。
「すぐに帰るから……」
迷惑そうに眉間にシワを寄せ、テレビを見ていた峰岸に声を掛ければ、
「そうか」
どうでもよさそうな態度をとられた。
昨日までは私の部屋、今日からは違うそこに足を踏み入れて手際よく荷物をボストンバックに積める。
ふと目に入ったぬいぐるみを見て、無性に悲しくなった。