愛のない部屋

初めて行ったお祭り。
射的の景品であるライオンのぬいぐるみ。
ーー峰岸からの贈り物。


本当なら置いて行った方が良いのだけれど、紙袋にそっと入れた。

ライオンを見て感傷に浸ることもあるだろうけれど、やはり思い出の品として傍に置いておきたかった。

未練がましいな…。


「昨日、どこに行ってたんだ?」


「え?」


開けたままのドアから峰岸の声が聞こえた。



「滝沢さんのとこだと思ってた…」


「あ。うんと、…」



篠崎さんと一緒にいました。

そう言わなくちゃいけないのに。


――付き合うことになりました。


きっぱり言い切らなければ、駄目なのに。

言葉が続かない。




「さっき篠崎から連絡が来た。おまえが来る少し前だ」


「篠崎さんから?」


「ああ。おまえが荷物を取りに来ることと――、付き合うことになった、という報告をされた」



峰岸はどんな顔をしているのだろう。
それを確認する勇気はない。

< 206 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop