愛のない部屋

「本当なのか?」


荷造りをする手を止めて、廊下から聞こえる峰岸の声に耳を傾ける。



「どうなんだ?」


苛立ちを含んだ声。

はっきりしない私への憤りなのだろうか。


「本当です」


壁に向かって、なんとか言えた。



「私、もう一度恋をしてみようと思います」


「……」


少し間があく。



「応援する」


沈黙の後に届いた言葉は、私の胸をえぐるもので思わず紙袋ごとライオンを抱き締めた。



「篠崎は良い男だ」


まだ話は続いているようだ。

もう聞きたくないよ。



「幸せになれ」


「ありがとう」




幸せを掴むなら、峰岸と一緒がいい。

例え隣りを歩けなくとも、一緒に幸せになりたい。だから峰岸とマリコさんの2人にも、幸福な時間を過ごして欲しい。

そう思うことは偽善だろうか。




「私ね、初恋は15歳年上の担任の先生だったの」


「……」


返事はなかったが、すぐ近くにいる気配を感じていた。

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