愛のない部屋
なぜ今になって峰岸に過去の話をしなければいけないのか、しようと思ったのか、理由は曖昧だ。
ただ篠崎に話したことを峰岸に秘密というのも、なんだかすっきりしないからかな。
「早くに両親に置いていかれてずっとひとりだった。親戚は私を疎がり、居心地がすごく悪かった。そんな中で担任の先生が気にかけてくれて、恋をしてしまった…」
燃えるようなひと夏の恋。
「付き合うことになって、しばらく幸せだった――でも結局、傷ついた。もう恋をしないと、何度も何度も誓ったよ。誰も信じないと」
「……そうか」
話は聞いてくれていたようで、先を続ける。
長くならないように手短にまとめよう。
「でも社会人になってタキに出逢って、それから峰岸を紹介されて。人生も捨てたもんじゃないと思ったよ」
いっきに言い、荷物を手にして立ち上がる。
そして廊下に立つ峰岸と、目を合わせる。
「ありがとう」
峰岸に深く頭を下げた。
「私を変えてくれて、ありがとうございました」
私のこの想いが、伝わるといい。