愛のない部屋
この感謝の想いだけでも届けたい。
「俺は――」
峰岸がなにかを言い掛けて途中で止めた。
「もう2人きりで話せることも、これで最後かもしれない。だから峰岸もなにか言いたいことがあったら言って?文句でもいいから」
サヨナラ、の前になにか言って欲しかった。
もう少しだけ、一緒にいたい。
「実は昨日、マリコに…」
マリコさん?
―――ピンポーン。
インターフォンが鳴り響く。
峰岸の話の腰を折り、ひどくタイミングが悪かった。
「…おまえの迎えだろう」
「え?」
「篠崎だ!」
強い口調。
いつもそっけなくて乱暴な物言いではあったけれど、怒鳴られたことはなかった。
「なにも話すことはない。さっさと行け」
「待ってよ。なにか言い掛けたじゃ…」
「同じことを2度も言わせるな!行けよ!」
その目は怒りを含んでいて。
好きな人から向けられた痛々しい視線に胸が苦しくなった。
「篠崎の女に興味はない」
私のことを"好き"だと言ってくれた、あの日の気持ちは峰岸の中にはもう残っていないのか。
それともまた峰岸の嘘なのか、
見当がつかずに峰岸から逃げるように玄関へ向かった。