愛のない部屋
私たちが付き合うと聞いた時、
峰岸はなにを思ったのだろうか。
そんなバカげた考えをすぐに打ち消しながら、隣りに座る篠崎を見る。
「俺は本気で君と付き合いたいと思ってる」
「……」
本気の恋は求めていない。
私はただ篠崎さんに恋人役を演じて欲しいだけ。
それでもこちらが頼んでいる以上、断ることはできないよね?
「分かってるよ。沙奈ちゃんは俺と期間限定の恋がしたいだけだよね?だから俺が必要なくなったら、離れてくれて構わない」
ハンドルをきる篠崎の横顔は笑っていた。
「つまり君は、俺を利用するんだ」
信号が赤に変わり、篠崎は真っ直ぐ私を捕らえた。
濁りのない瞳。
「私が篠崎さんを利用……」
ぽつりと同じことを繰り返す。
自覚がないわけではない。
私がとった行動は篠崎を都合のいいように利用しているだけだ。
「ごめ……」
「謝らないで?だから昨日も言ったけど、俺の提案を呑んで欲しいんだ。恋人同士を演じてなければいけない期間だけ、本気でお互いを愛す努力をしようよ」
「……」
「前から俺は沙奈ちゃんのことが好き。当然、君と付き合えるなんて嬉しいわけだ。傷ついた君の隙につけ入っている卑怯な手口とも言えるな」
「篠崎さん……」