愛のない部屋
「君が俺を利用してるんじゃない。俺が望んでやってることだ」
どちらが卑怯であるかは一目瞭然で、また篠崎に甘えようとしている。
「篠崎さんはそれで良いんですか?」
「ああ、もちろん」
真っ直ぐ前を向きながらピースをして笑う姿は、子供のようだ。
仕草は時々、子供。
始業時間ギリギリに走って出社する姿も子供みたいだと思っていた。
でも包容力があって、頭が良くて、相手の気持ちを理解してくれて大人な一面もたくさんある。
完璧な大人になれば良いわけじゃない。
子供の頃に抱いていた夢や純粋な心を捨ててしまってはいけないのだと、篠崎を見ているとそう思う。
彼の濁りのない澄んだ瞳が羨ましくなる。
「峰岸、君がいなくなって寂しい思いをしてるよ」
「そうでしょうか」
もしかしたら明日からマリコさんが私の使わせてもらっていた部屋に引っ越してくるかもしれない。
邪魔者を追い出すことができてほっとしているかも。
「戻って来い、そう言われたらどうする?」
「戻りません」
もう引き返せないところに私は立っているのだから。