愛のない部屋
"あの旅行に戻りたい"
もし戻れたとしたら
泣き叫んでも
マリコさんに会いに行くという峰岸を、止めたであろう。
行かないで、
そう叫べば良かった。
離れ離れになってしまう結末なら、
マリコさんのことは曖昧でも良かったから、
傍にいて欲しかった。
そう今更、思う。
もう遅いと分かりきっているのに……。
「マリコのこと、まだなにも聞いてないのに。おまえは峰岸から離れるのか?ちゃんと納得して出した結論なのか?」
「……」
タキの前では誤魔化しが利かないし、嘘をつこうとも思わなかった。
「まだ踏ん切りはついてない。でもいつかもう一度、ちゃんと話したいかな」
"篠崎の女には興味がない"
そう冷たく言い放たれたことが、峰岸の演技であって欲しいとどこかで望む自分がいる。
「それじゃぁちょうど良い機会を設けたかな」
「ええ」
私にではなく、舞さんに峰岸は笑い掛けた。
話が見えないので黙っていると、
私の隣りの空席に、男が座った。
「遅くなりました」
………。
なんで此処に、峰岸が来るのだろう。
私は驚ろき、しばらく固まっていた。