愛のない部屋
峰岸は珈琲を注文し、上着を脱いだ。
私には見覚えのないネクタイをしている。
「休日に仕事?」
「ええ、午前中だけ」
タキの質問に峰岸は今日も働いていたのだと分かる。
今日は少しクマが出ている。
疲れているのかな。
「急用を思い出したので、帰ります」
「沙奈ちゃん!」
舞さんは驚いたように反応したが、タキは見透かした表情をしてなにも言わなかった。
私が峰岸から逃げ出すことなど、タキはお見通しなのだと思う。
「失礼しました」
立ち上がって峰岸の顔を見ないように、扉へ一直線。
疲れている峰岸に更なるストレスを与えるであろう私はさっさと退散した方が良い。
表に出れば、
まだ10歳にも満たないであろう男の子が勢いよく
――ぶつかってきた。
その拍子に男の子が抱えていたサッカーボールが、転がった。
道路の方に向かって……。
「ダメッ!!!!」
ボールの後を追って、
道路に踏み出した男の子を見て
――身体が勝手に動いた。