愛のない部屋
峰岸は綺麗にオムライスを平らげた。
残さず食べてくれて良かった…。
「おまえは優しくされるのが嫌なのか?」
「そう」
「俺が本当に優しい奴なら、大切な人を傷付けずに済んだと思うよ。後悔していることがある」
大切な人を傷付けてしまったかのような口ぶりだ。
「なんか言えよ」
峰岸は麦茶を飲み、やり場のない視線をさ迷わせた。
「もう疲れた」
「は?」
繋がらない会話に峰岸は首を傾げた。
「疲れたから、シャワー浴びて寝る」
「ああ…」
歯切れの悪い峰岸を無視して、洗面所に向かう。
本当に今日は疲れたんだ。
「はあ」
鏡の前に立ち、洗面台に両手をつく。
峰岸が発した後悔という言葉が、私の胸へ突き刺さった。
私だって沢山の後悔をして、今ここに立っている。悔いていることなんて数えきれない。
「思い出しちゃ駄目……」
目をつむり、心を落ち着かせる。
失恋という痛みを誰にも言えずに生きてきた。
ひとりで背負ってきた。
その重い荷物を、
『半分どころか、全部担いでやるよ』
そんなふうに言ってくれた
タキの言葉を、
片時も忘れられない。