愛のない部屋
「俺が持って行くよ。第一会議室で良いんだろ」
「いや……、」
峰岸はさっさと綺麗にまとめた書類を抱えて、歩き出す。
「これは私の仕事だから」
「知ってる。でも手伝うのは俺の自由だろ」
自由と言ったところで、好きで重い荷物を運ぶ人間はいないだろう。
「峰岸……、」
峰岸の背中を追って会議室に入る。
「これでおまえへの貸しが出来たわけだ。今日の夕食はおまえが作れ」
「……無理」
距離を置くと決めた以上、一緒に食卓を囲めない。
本当は簡単にお礼を言って、会議室から出なければいけないのに社内で話をすることはどこか新鮮で、足を止めてしまっている。
いや、違う。
峰岸と少しでも一緒に居たくて、言い訳を並べているだけだ。
「……借りを返さないなんて、薄情だな」
「はぁ?別に頼んでして貰ったわけじゃないわよ」
貸しとか借りとか。
そんな言葉で表現するしかない峰岸の気持ちが痛いほど分かる。
『夕食、一緒に食べよう』
そう率直に言えない関係だから、どうでもいい理由をつけてしまう。
一緒に居たいだけなのにね……。