愛のない部屋
「じゃ、行くわ」
「うん、ありがとう」
結局、夕食についての約束は曖昧なまま。それでも私は帰宅途中にスーパーに寄ろうと計画を立てる。
「今日は定時に上がれるの?」
「そのつもり」
こちらの考えを悟ったのか、ニヤリと笑う。
「楽しみにしとく」
同じ部屋に帰れるという安心感に包まれているのに、マリコさんと峰岸の"これから"に不安を覚える。
2人が元鞘に戻る確率はどれくらいなのだろう。
「真剣な顔をしているけれど、手は動いてないみたいだね」
そう指摘され、我に返る。
峰岸が会議室を出て行ってから、もう既に何分か経っていた。
「すみません」
頼まれた仕事もこなせない女になりたくなかったのに、峰岸のことで頭がいっぱいなんて……情けない。
「いや、冗談だよ。もう昼休みになるのに、なかなか戻って来ないから様子を見に来たんだ」
どこまでも気の利く上司。
長机に置いたままの書類を一部ずつ手際よくそれぞれの席へと配っていく。
「篠崎さん、私がやります」
「うん、そっち頼むよ」