愛のない部屋

今まで何度も何度も、こうして篠崎の手を借りていたであろうことを最近になって気付いた。
その配慮に気付くことなく、一人前のような顔をして仕事をしていたなんて……。



「さっきエレベーター、峰岸と一緒になってね。女に力仕事はやらせるな、って怒られちゃったよ」


峰岸……。


「帰りは駅で待ってるってさ」


「えっ?」


「良いんじゃない?帰る方向は一緒なんだしさ」



つまり一緒に帰ろうということだよね?



「社内恋愛は禁止じゃないんですか?」


その辺のルールは今まで興味がなかったものだから、よく知らない。


「社内恋愛禁止だったら、今頃俺は追放されてるよ」


「そっか」



納得したように頷いた私に、篠崎は不満げに言う。


「俺はプライベートと仕事を分ける主義じゃないんで」



そんなことを言いながら、公私混同はきっちり区別しているに違いない。篠崎とはそういう男だ。



「たださ、沙奈ちゃん?」


「はい」


「ひとつ忠告」


尊敬する上司の忠告を真剣に聞こうと手を止めた。

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